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安全な自動運転の実現に突きつけられるトレードオフ

自動運転では、総合的な安全性を保証するためのセンサ冗長性のコスト比が課題となる。

プロセッサアーキテクチャの進化に対応するには、ソフトウェア定義のテストプラットフォームが重要となる。

自動運転の要件がマイクロプロセッサのアーキテクチャに影響するため、半導体業界と自動車業界が提携しつつ ある。

image description 世界保健機関(WHO)によると、交通事故による死者数は毎年125万人以上で、政府が交通事故により負担する金額はGDPの約3パーセントに上ります。 自動運転の潜在的影響は個人、経済、政治の領域まで及びますが、人命救助の可能性だけを見ても、自動運転が現代における最も革新的な発明であるといえます。 先進運転支援システム(ADAS)は、センサ、プロセッサ、およびソフトウェアを集約することで安全性を向上し、最終的には自動運転を実現します。

現在ほとんどのADASが、レーダやカメラなどのシングルセンサを使用しており、既に大きな効果を上げています。 IIHSの2016年の調査によると、後部衝突が自動ブレーキシステムによって約40%減少し、衝突警報システムによって23%減少したことが報告されています。 それでもなお、重大な自動車事故の94%が人的ミスに起因することがNHTSAによって報告されています。運転支援から自動運転レベル4または5に移行し、ドライバーを車の運転から解放するうえで、自動車産業は非常に複雑な課題に直面しています。 たとえば、センサフュージョン(多くのセンサの計測データを組み合わせて結果を導き出すこと)が必要であり、 そのためには、同期、高出力処理、およびセンサ自体の継続的な進化が求められます。 これは自動車メーカーにとって、3つの重要なトレードオフ、すなわちコスト、技術、戦略の適切なバランスを取ることを意味します。

コスト:冗長センサvs.補助センサ

image description 自動運転レベル3の基準では、車両が所定の状況下にある場合、ドライバーは積極的に注意を払う必要はないとされています。2019 Audi A8を例に挙げてみましょう。 車両には6台のカメラ、5台のレーダデバイス、1台のLiDAR(ライダ)デバイス、12個の超音波センサが装備されています。 なぜそんなに多数の装備が必要なのでしょうか。 それは、それぞれに固有の長所と短所があるからです。たとえば、レーダでは物体の速度はわかりますが、物体が何であるかを判別することはできません。 物体の挙動を予測するには両方のデータポイントが非常に重要であり、各センサの弱点を克服するために冗長性が必要なため、センサフュージョンは必須です。

センサのデータ処理の最終的な目的は、意思決定アルゴリズムに 入力できる形で、なおかつコストを抑えて最終的な製品が利益を 上げられる形で、車両の周辺環境についてフェイルセーフな表現 を作り出すことです。 そのための最も重要な課題のひとつが、適切 なソフトウェアの選択です。「 計測を正確に同期させる」、「データの トレーサビリティを維持する」、「無数の実世界シナリオでソフトウ ェアをテストする」という3つの例について考えてみましょう。 これ らはそれぞれ独自の課題があります。自動運転では3つ全てが求 められますが、その代償は何でしょうか。

LIDARが冗長性を加える

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技術:分散アーキテクチャvs.中央集中型アーキテクチャ

ADASの処理能力は複数の独立した制御ユニットをベースとしていますが、センサフュージョンによって中央集中型プロセッサの人気が高まっています。 Audi A8について考えてみましょう。 この2019モデルでは、必要なセンサ、機能ポートフォリオ、電子ハードウェア、ソフトウェアアーキテクチャが1つのシステムに集約されています。 セントラルドライバーアシスタンスコントローラが、車両周辺環境のモデル全体を計算し、全ての支援システムを作動させます。 その処理能力は、旧Audi A8モデルの全てのシステムを組み合わせたものを上回ります。中央集中型アーキテクチャで懸念されるのは、高出力処理のコストです。安全性を重視したバックアップとしてセカンダリフュージョンコントローラを車両のどこかに設置する必要があり、これがコストをさらに増加させています。

コントローラとその処理能力の進化に伴い、選択すべきアーキテクチャ設計は分散型と中央集中型との間で変わる可能性があります。このような進化に後れを取らないためには、ソフトウェア定義のテスタ設計が大変重要になります。

「Continental社インテリア部門担当取締役会メンバーであるHelmut Matschi氏は、全てがソフトウェアエンジニアリングに戻ってくる、と語っている。 今後10年以内に高性能車載コンピュータが普及することで、開発プロジェクト予算の80%がソフトウェアに投入されることになる可能性がある、と同氏は予測している。」

Automotive News, 「Continental Bracing for a World of Bugs」、2018年

戦略:内製技術vs.COTS技術

自動運転レベル5を実現するためには、現在コントローラに搭載されているマイクロプロセッサの2000倍の処理能力が必要です。そのため、マイクロプロセッサは急速にミリ波レーダセンサシステムのRFコンポーネントよりも高価になりつつあります。 過去を振り返ると、需要の多い高価な機能が周辺市場のリーダーの注目を集めるようになり、市場の競争が激化してきました。

1つのデータとして、UBSは、Chevrolet Boltのパワートレインで使われている半導体部品は、同等の内燃エンジン車の6倍から10倍だと推測しています。 半導体部品は増加の一途を辿り、周辺市場はCOTS技術を改良することで計り知れない価値をもたらします。 たとえばNVIDIA社は、当初家電製品向けに開発されたTegraプラットフォームを、自動車システムのADASアプリケーションに転用しています。 またDenso社は、独自の人工知能マイクロプロセッサの設計と製造を開始し、コストとエネルギー消費を削減しました。Denso社の子会社であるNSITEXE社は、2022年に次世代プロセッサIPとなるデータフロープロセッサ(DFP)をリリースする予定です。 レースは既に始まっています。

トレードオフの最適化

ここまで述べたようなトレードオフに関する意思決定は、サプライチェーン全体にわたる市場投入までの時間と差別化能力に大きく影響します。 検証テストおよび製造テストのコストや時間を最小限に抑えるうえで、テスタを迅速に再構成できることが非常に重要なため、ソフトウェアの柔軟性が鍵となります。 トヨタ・リサーチ・インスティテュートの最高経営責任者(CEO)であるJames Kuffner博士は、2018年3月4日に発行されたインタビュー(bloomberg.com)でこのように述べています。「予算について言えば、2倍ではなく4倍にします。 トヨタが世界トップレベルのソフトウェアに裏打ちされた新しいモビリティ企業になることを目指して、約40億ドルを用意しています。」 このような傾向は自動車業界では珍しいことではありません。 こうしたトレードオフに明確な正解はありません。しかし、過去の産業革命において、生産性の向上によって新しい技術の導入が可能になったように、ソフトウェア開発の効率化は「自動運転革命」にとって不可欠だと言えるでしょう。

冗長センサVS.補助センサの考慮点

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Jeff Phillips

NI 自動車マーケティング担当

NI Trend Watch 2019:確実な将来の展望を描くためにメガトレンドを見直す

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